国道289号 甲子峠(2)
ホーム登山道国道踏破記
◆概要
甲子峠から下郷町側の眺望 (写真拡大
  

 
前回の甲子峠登山道訪問から約6年、車道未開通部分の新道建設は着々と進み、2008年9月21日、遂に新道開通の日を迎えることとなった。前回は登山道の全区間踏破を試みたものの、天候に恵まれず、甲子山分岐点〜甲子峠間を歩き残している。そこで、新道開通が僅か1週間後に迫った2008年9月14日、急き立てられるように登山道の全区間踏破を目指して再び甲子峠に向かった。

本来なら改めて登山道の全区間をトレースしたいところであるが、時間的な制約もあり、今回は甲子峠まで車でアプローチして、甲子峠〜甲子山分岐点間を往復することにした。峠に至るまでの途上では、既に新道開通に向けた準備が秒読み段階に入っており、全国区だった甲子峠登山道国道の終焉を肌で感じることとなった。
 

◆踏破記

「甲子道路」開通間近の289号を行く

 

2008年9月14日 、8:50、友人とともに今回の登山の拠点として宿泊した二岐温泉の旅館を車で出発した。二岐温泉は甲子峠の北方に位置する山深い温泉である。二岐温泉と甲子峠は実は直線距離で約5kmしか離れていないが、車道をたどるとなると峠とは逆方向に出発した上、約40kmの大迂回をしなければならない。

国道118号から121号に入ったところでコンビニに立ち寄り買出し。買出しと言っても、今回の登山は往復でも2時間半程度と見込んでおり、飲み物程度に留める。気になる空模様であるが、雲は多めながらまずまずの天気で、気持ち良く登山ができそうである。

出発から約1時間で下郷町の国道289号分岐へ。手前の案内標識にはまだ「白河方面通行不能」の赤い文字が見えるが、これもあと1週間である(写真1)。

国道289号に入ると新道開通のムードは一気に高まり、「祝 一般国道289号(甲子道路)平成20年9月21日開通」の横断幕(写真2)や「国道289号甲子道路」、「9/21(日)午後2時開通」を交互に表示する電光掲示板などが立て続けに現れる。また、以前残っていた1〜1.5車線の区間はすっかり解消されて2車線の快走路に。下郷町から白河市に抜ける場合、新道開通により約50分の時間短縮効果があるといい、地元の期待は大きいに違いない。
 

1 国道289号分岐手前の案内標識 (写真拡大 2 甲子道路開通を祝う横断幕 (写真拡大


国道121号から走ること約10分、南倉沢付近で遂に新道区間入口に到達(写真3)。ここには何と「開通をお待ちの皆様の駐車位置・駐車順番 案内図」と題した福島県南会津建設事務所による案内が既に掲示されていた(写真4)。さすがに順番待ちの車の姿はまだ見えないが、最近のニュースを見る限り、新道開通に際し1番乗りのためには数日前から並ぶのがもはや当たり前となっており、それを見越して管理側も早めに手を打っているのだろう。今まで開通待ちには縁がなかっただけになかなか興味深い。
 

3 南倉沢付近の新道区間入口
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4 開通待ち車両の駐車位置を案内する掲示
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この先、線形の悪い2車線の現道を少し進むと、一旦、新道と合流し、再度、新道区間が分岐する地点へ(写真5)。ここで新道とは完全にお別れで、ほぼ1車線の林道規格となる現道を甲子峠に向けて走ることになる(写真6)。
 

5 甲子トンネルに向かう新道区間の分岐点
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6 1車線の現道を甲子峠に向かう
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甲子峠を初めて目指したのは、今から遡ること19年の1989年10月。軽自動車で西郷村側から甲子林道によるアプローチを試みたが、残念ながら直前の台風による災害通行止で敢えなく断念した。その1年後の1990年12月、今度は正攻法で下郷町側から国道289号で甲子峠を目指したが、当然のように積雪がネックで南倉沢集落の先でやはり走行を断念。そして、さらにその1年後の1991年8月、再度、下郷町側からアプローチし、3度目にしてようやく甲子峠に立つことができたという経緯がある。

さて、甲子峠を目前にした林道規格の区間であるが、1991年8月に走行したときは、ダートながらさほど苦労もなく峠に立てたという記憶がある。しかし、ダート部分の路面状況は年々悪化しているようで、今回は車の底を擦らないようにコース取りに苦労する場面もあった。お陰で予想外に時間を費やし、峠に到着したのは11:20。足場の良い温泉に泊まったつもりが登山開始まで2時間半も要してしまった。宿でしっかり朝食を取ってきたことがせめてもの救いである。

峠の様子は1991年に初めて来たときとほとんど変わっておらず、登山道入口に立つ道標も当時のまま(写真7、8)。唯一、西郷村側へ下る甲子林道の入口に土盛りがあり、物理的に四輪車の進入を阻止している程度。天気にも恵まれ、峠からの眺望もまずまずである(概要欄写真)。
 

7 甲子峠 (写真拡大
  青い車の辺りに登山道入口がある。
8 登山道入口に立つ道標 (写真拡大


甲子峠登山道全区間踏破達成へ

 

各自、簡単な準備で登山の態勢を整えた後、11:40、289号登山道へ一歩を踏み出す。今回歩く甲子峠〜甲子山分岐点間の登山道は、地形図によると、前半は甲子山に続く尾根上のルート、後半は甲子山山腹のトラバースルートである。ただ、尾根上ルートとはいえ途上には2つのピークが待ち構えており、甲子峠からは早速1つ目のピークに向けての急な登りとなる。

峠からの比高は30〜40m程度であろうか、第1ピークを登り切ると、そこには峠にも増して素晴らしい眺望が広がっていた。まず、下郷町側の眼下には先ほど走って来た車道の九十九折が(写真9)、また、正面に目を向けると、これから向かう第2ピークの背後に標高1549mの甲子山、さらには荒々しい山容を見せる標高1835mの旭岳も(写真10)。前回歩いた甲子温泉〜甲子山分岐点間は、樹林や霧に覆われ展望がなかっただけに、同じ甲子峠登山道でもがらりと印象が異なる。
 

9 下郷町側眼下の九十九折の車道
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10 第1ピークから甲子山、旭岳方面を望む
  (写真拡大


第1ピークから第2ピークにかけても笹原や低木帯が中心で、見晴らしは良い。また、踏み跡もしっかりしており、日陰部分が昨夜の雨で多少ぬかるんでいる以外は特に問題はない。

第2ピークを下り切ると前回の区間と同様、登山道は樹林帯に吸い込まれ、以降、視界は遮られる(写真11)。そして、12:10、歩き始めてから約30分で登山道の分岐点へ(写真12)。道標はなく、地形図にも分岐する登山道は描かれていないが、恐らく左手が289号登山道で、右手は尾根上をそのまま進んで甲子山に至るルートであろう。すなわち、この地点から289号登山道は尾根を離れ、後半のトラバースルートに入ると考えられる。
  

11 樹林帯を行く登山道 (写真拡大 12 笹が茂る登山道分岐点 (写真拡大


その後も樹林帯のルートが続くが、部分的に左手の展望が開ける場所も(写真13)。正面の大白森山の山腹には引っ掻き傷のような甲子林道の道筋が見える。

トラバースルートに入ってからはほぼ等高線に沿っているため、起伏は至って穏やか。所々木漏れ日の射す気持ちのよい散歩道である(写真14)。
 

13 甲子峠、大白森山方面を望む
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14 トラバースルートの平坦な登山道
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そして、12:35、峠から歩くこと1時間弱で見覚えのある場所へ(写真15)。そう、6年前に思案した末に引き返した甲子山分岐点である。この瞬間をもって、友人共々6年越しの甲子峠登山道の踏破が達成となった。

6年前は周囲は一面の紅葉に覆われていたが、今はまだ木々の緑が鮮やか(写真16)。踏破達成の感慨に浸るのもさることながら、長年に渡って登山道国道の代表格を張ってきたこの甲子峠登山道があと1週間で主役の座を「甲子道路」に譲ることに一抹の寂しさを感じずにはいられなかった。
 

15 甲子山分岐点に到達 (写真拡大
 
16 甲子山分岐点にて (写真拡大
 
◆付記

この後、同じルートを再び甲子峠まで戻り、車にて帰途に就いた。実はその際、「登山道国道標識」のことが少し気にかかったのだが、アプローチに必要な時間・労力を考えると断念するしかなかった。

ところが、登山から数週間後、ネットで「登山道国道標識」撤去の一報を知ることとなった。正直、「新道が開通した後もすぐには撤去されないだろう」と高をくくっていただけに、やはりショックは隠せない。願わくばもう一度、大黒屋の湯につかりながら国道標識を眺めたかったものである。

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