国道289号 甲子峠(1)
ホーム登山道国道踏破記
◆概要
登山道上に立つ国道標識 (写真拡大
  

 
八十里越と並んで国道289号の登山道区間となっている甲子峠は、福島県南部の下郷町と西郷村の境界に位置する標高1380mの峠である。ただし、下郷町側から甲子峠までは狭路ながら車道が通じているため、実際に国道が登山道となっているのは西郷村側の甲子峠〜甲子温泉間である。

登山口に当たる甲子温泉は歴史のある名湯で、一軒宿の大黒屋が甲子山の懐に抱かれて建っている。その大黒屋から登山道を少し登ったところに立っているのが、「登山道国道標識」(右写真)である。その存在は近年広く知られるようになっているが、登山道が実際に国道であることを示しているという点では大変貴重な存在である。

今回の登山では、登山道を往復することを前提に、スタート地点である甲子温泉まで車で乗り入れた。しかし、登山開始が昼頃であったこと、天候が不安定であったことから、登山道の途中で引き返すことになり、残念ながら登山道区間を全線踏破するには至らなかった。
 

◆踏破記

「登山道国道標識」健在

 

2002年10月19日 、10:19、友人とともに東北新幹線新白河駅のホームに降り立った。朝の天気予報では、夕方から雨との予報だったが、すでに一雨あったらしく、駅前の路面は濡れている。今日は雨中の山歩きになるかもしれない。

駅レンタカーの手続きを済ませ、10:50、新白河駅を出発。登山用の買出しのため、まずは国道4号沿いにあるジャスコに寄る。昼食、非常食の調達のほか、念のため、雨カッパも入手。できればこれを着ずに済ませたいものである。

はっきりしない曇り空のもと、国道289号を西に向かう。レンタカーの「トヨタ イスト」は、まだ走行距離数千キロの新車で、乗り心地もまずまず。ただ、スピードメーターの位置がインパネのほぼ中央という配置にはかなり違和感があり、慣れるまで時間がかかりそうである。

今夜宿泊予定の新甲子温泉を過ぎてまもなく、国道上に通行止のゲートが現れた。一瞬あせったものの、この先にある甲子温泉へは旧道へ迂回せよとの案内があり、一安心。その旧道に入ると、狭い道にもかかわらず、対向車が結構多い。紅葉が見頃を迎えているせいもあるのだろう。途中、交互通行の信号があり、工事かと思いきや実はそうではなく、急勾配の1車線区間で車のすれ違いが困難であるための措置だった。

11:50、白河市街から走ること約30分で、甲子温泉に到着。昼間の時間帯にもかかわらず、大黒屋の駐車場には多数の車が停まっている。

さて、甲子温泉に来るのは、1995年11月以来7年ぶりである。前回来たときは、289号登山道の入口を確認することだけが目的だった。そのときの模様を振り返ってみると・・・
 

1 駐車場の奥にある大黒屋の離れ [1995/11/02撮影]
  赤い屋根をくぐると、ダートの車道が続いている。
 
2 車道終点に立つ国道標識 [1995/11/02撮影]
  大浴場から見えたのはこの標識。 (写真拡大
3 「登山道国道標識」と初対面 [1995/11/02撮影]
  (写真拡大
 

『1995年11月2日、14:10、甲子温泉に到着。以前、テレビ番組の「巨泉のこんなものいらない」で見た「登山道国道」を探すが、車道から分岐しているそれらしい道はなく、手がかりは得られず仕舞い。仕方なく、温泉にでも入って体を温めようと、大黒屋で入浴することにした。

本館から外廊下と橋を歩き継いで、別棟の大浴場へ。混浴風呂と女性専用に分かれているが、混浴の方に入ると、男性用の脱衣場は湯船と簡単な仕切り1枚で隔てられているだけで、実質的には男風呂である。

大浴場は昔ながらの木造で風情があり、いかにも東北の温泉といった雰囲気。露天風呂こそないものの、これで十分満足である。

しばらく、湯船につかった後、体を冷ますため、みぞれの降る窓の外を眺めていたときだった。何と川の対岸に289号の国道標識が立っているではないか!

一瞬、位置関係がよく飲み込めなかったが、どうやら旅館の駐車場から道が延びているようである。恐らく登山道に通じる道に違いない。こうなると、写真撮影に必要な明るさの問題もあり、ゆっくりと温泉につかっている場合ではない。

というわけで、早々に風呂から上がり、脱衣場で着替えていると、突然、体にタオルを巻いたおばちゃん5〜6人が大声で騒ぎながら「乱入」してきた。しかも、タオルも取らずにそのまま湯船につかるではないか。余りのマナーの悪さに思わず絶句。先客のおっちゃんたちも迷惑そうである。

さて、気を取り直して国道見物。車へカメラを取りに戻って、早速、国道標識の方へ向かう。旅館の駐車場の奥からは、やはり1車線ダート道が続いていたが(写真1)、車道は100mほどで終わり、そこに先ほどの国道標識が立っていた(写真2)。わざわざ、ここに立てる必要があるのか、甚だ疑問ではあるが・・・。

その先は、「甲子山登山口」の案内板とともに、歩行者のみが通行できる橋、そして階段・・・と続いている。いよいよ、登山道の登場である。

期待に胸をふくらませて、その階段を登りきると、遂にテレビで見た「登山道国道」が出現!しかし、その感動を味わう間もなく、信じられないものが目に飛び込んできた。何と、登山道の脇に国道標識が立っているではないか!(写真3) しかも、その国道標識の支柱は木。さすがにここまでやると、少し興ざめの感もあるが・・・。

この「登山道国道標識」を見て、すぐに思い浮かんだのが、有名な国道339号の「階段国道」である。恐らく、すっかり観光地となった階段国道に倣って、こんな登山道にも国道標識を立てたのだろう。なお、今日は無理だが、国道標識が果たして甲子峠まで続いているのか、機会があれば是非とも確かめてみたいものである。』(引用ここまで)

こんな具合に、「登山道国道標識」と初対面を果たしたわけだが、いよいよ、「登山道国道標識」のさらに先、甲子峠を目指して、登山道を登るときがやってきた。

登山準備を整えて、12:10、大黒屋駐車場を出発。まずは「登山道国道標識」の健在ぶりを確認する。7年前と何ら変化は見られないが、心なしか周囲の景色に溶け込んでいるように感じたのは、気のせいだろうか。友人は今日が初対面となるため、標識の撮影と観察に余念がない。
 



紅葉の登山道を行く

 
4 登山道上に立ちはだかる巨大な倒木  
5 色付いた木々の中に続く登山道 (写真拡大
6 猿ヶ鼻の標識 (写真拡大) 
7 甲子山分岐点 (写真拡大
 

「登山道国道標識」から先は、大黒屋の建物を見下ろしながら、次第に高度を上げていく。甲子山や三本槍岳への登山道として整備されているせいか、登山道としては至って歩きやすい。現にすれ違う下山途中の登山客も多く、どちらかというとマニアックなルートが多い登山道国道の中にあっては異例と言えそうである。

衣紋滝への道を分けると、登山道は急斜面に張り付いた九十九折となる。地形図上では等高線がかなり込み合っているところである。しかし、意外にも道自体の勾配は抑えられていて、さほど息が上がることもない。かなりの急登を覚悟していただけに、少し拍子抜けである。

やがて、眼下に道路工事現場が見えてきた。場所は大黒屋の少し南側である。国道289号甲子峠には峠を貫くトンネルが計画されており、恐らくそのトンネル関連の工事であろう。

さらに進むと、登山道上に巨大な倒木が立ちはだかった(写真4)。直径60〜70cmはあるだろうか。下をくぐろうにも地面を這うほどのスペースしかなく、かといって乗り越えようにも木が傾いていて非常にバランスが取りづらそうである。仕方なく、折れた根元まで斜面を迂回しクリアーした。

標高が上がるにつれ、木々の色付きは鮮やかさを増してきた(写真5)。紅葉というと、どうしても晴天を期待してしまうが、今日のような曇天の柔らかな光で眺めるのもいいものである。

長かった九十九折がようやく終わり尾根道に出ると、間もなく猿ヶ鼻に到着。時間は13:35、大黒屋からの所要時間は1時間25分である。猿ヶ鼻は地形図上にも記載があるポイントだが、特に眺めがいいわけでもなければ、休憩用のベンチがあるわけでもなく、ただ、標識がぽつんと立っているだけである(写真6)。

猿ヶ鼻では10分間休憩し、再び登山道に歩を進める。勾配は至って緩やかで、足取りは軽い。

尾根道ということで、左右の展望を期待していたのだが、にわかに一面の霧に覆われてしまった。こうなると、もはや、いつ雨が降り出してもおかしくないという感じである。

そして、14:10、猿ヶ鼻から25分で甲子山分岐点に到着。登山道が二手に分かれており、右手が国道289号で甲子峠・大白森山方面、左手が甲子山・三本槍岳方面となる(写真7)。

さて、ここから289号登山道の終点、甲子峠までは、1時間弱の距離であるが、天候が悪くなってきたこと、明るいうちに大黒屋まで確実に下山する必要があることを考え、心残りではあるが、今日はここで引き返すことに決めた。残りの区間については明日歩くチャンスがあるが、天気予報では明日は雨となっており、踏破はまた別の機会にしたほうが良さそうである。

持参の弁当で遅い昼食をとった後、14:50に下山を開始。何とか天気がもってほしいという願いが通じたのか、下山している間、雨はぱらつく程度で済み、16:20、無事にスタート地点の大黒屋へ。そして、駐車場の車に乗り込んだ途端、本降りの雨となったのだった。

なお、今回歩いた甲子温泉〜甲子山分岐点間では、残念ながら新たに「登山道国道標識」を発見することはできなかった。この調子では、歩き残した甲子山分岐点〜甲子峠間も望み薄のようである。
 


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