国道140号 雁坂峠(2)
ホーム登山道国道踏破記
◆概要
雁坂小屋付近からの展望
  

 
「国道140号 雁坂峠(1)」では、雁坂峠の140号登山道のうち山梨県側登山口・広瀬〜雁坂小屋間をたどったが、そのとき、埼玉県側の川又〜雁坂小屋間も一部を除いて踏破可能であることが分かった。しかし、翌春(1998年)には雁坂トンネルの開通が控えており、何とか年内に埼玉県側の踏破も終えておきたい。そこで、前回から約1ヶ月後、標高2000m級の山々ではもう冬が目前に迫っていた11月初旬に、埼玉県側から雁坂小屋を目指しての登山を決行することになった。

今回の登山には、友人2人も加わる。登山口まではレンタカーでアプローチするため、今回もピストン登山であるが、せっかくだからということで、友人2人は雁坂峠からそのまま山梨県側に下山し、路線バス利用で帰途に就くことになった。ただし、時間的にはかなりの強行軍を強いられることになる。
 

◆踏破記

まずは登山口の特定から

 

1997年11月1日13:00、JR八王子駅前で友人の1人と落ち合う。今日、明日の足となる駅レンタカーを借りると、すぐに秩父方面に向けて出発。実は明日の登山を控え、今日中にぜひやっておきたいことがある。それは、140号登山道の埼玉県側登山口の特定である。

前回9月の登山で分かったことは、「雁坂小屋から黒岩経由で川又に下る140号登山道は、現在建設中の雁坂トンネルにつながる新道区間から分岐する林道に通じている」ということである。すなわち、地形図で示されている140号登山道正規ルートのうち、埼玉県側登山口(国道140号車道との交点)〜前記林道交点の間は、依然廃道の可能性が高いということである。となると、埼玉県側から140号登山道をたどるためには、その林道とやらの位置を正確に把握しておく必要があるのである。

国道16号、299号経由で秩父市街に入り、さらに国道140号を奥秩父方面へ。そして、140号の埼玉県側車両通行止地点のゲート(天狗岩トンネルの少し先)に到着したのは、辺りがすっかり暗くなった17:20頃だった。

さて、通行止地点に着いたものの、立っているのは雁坂トンネルの説明板だけで、登山口の手がかりとなりそうなものは何一つない。ゲートそばの監視員小屋の灯火もなく、どうやら無人のようである。そして何よりも、日が暮れてしまったこの状況では、探索目的で身動きするのもままならない。このまま、何も手がかりが得られないのか・・・。

車両通行止地点での探索をあきらめ、夜の山道を戻っていく途中、川又にある扇家旅館の前を通りかかった。「もしかして、旅館の人が知っているかも」と思い、ちょうど外に出てきたおっちゃんに声をかけてみたところ、これが当たりだった。おっちゃんによると、車両通行止地点の先にある豆焼橋を渡りきったところで、左に分岐している林道へ入れば、140号登山道に合流できるらしい。また、そのためには通行止地点のゲートを突破する必要があるが、徒歩で入る分には何ら問題はないとのこと。これで、登山口の位置もはっきりし、明日の登山の不安材料が一気に解消したのだった。

おっちゃんにお礼を言い、一路秩父市内へ。宿は国道140号と299号交点近くの旅館に決めた。その後、居酒屋に繰り出すと、遅れていたもう1人の友人も合流し、3人で乾杯となった。
 



雁坂峠再登山は疲労・空腹との戦い

 

翌11月2日、秩父市内の旅館を後にしたのは6:50だった。すぐに国道140号に入り、奥秩父方面を目指す。今朝は冷え込みが厳しい代わりに、素晴らしい秋晴れである。

国道沿いにローソンを見つけ、例の如く登山用の買出しを行う。朝食用にはカップラーメンとおにぎり、昼食および非常食用に弁当、おにぎり、ベビースターラーメン、カルピスのペットボトルを購入。朝食のほうは駐車場で済ませてしまった。

昨夜の扇家旅館を過ぎ、天狗岩トンネルの手前で一旦停車。実は地形図では、この付近から正規の140号登山道が分岐しているはずなのだが、それらしき道は見当たらないばかりか、急傾斜で谷へ落ち込んでいるため、普通の装備ではとても歩けそうもない。やはり、廃道と考えるのが正解のようである。

車両通行止地点のゲートには、8:50に到着。昨夜考えていた予定では7:00頃到着だったので、なんといきなり2時間の遅れである。

各自登山の体勢を整え、9:00に雁坂峠を目指して出発。3人とも普通の登山者の格好には程遠く、特に友人の1人はリュックではなく、普通の手さげカバンを背負っている。
 

1 豆焼沢の深い谷に架かる豆焼橋  
2 林道の終点に現れた140号登山道
3 登山道上の道標
4 断崖にへばりついた木橋
 

ゲートをくぐり2車線の舗装道を歩くうち、豆焼橋の手前で、先行していた年配の3人組登山者に追いついた。おっちゃんに「どこまで?」と聞かれ、「雁坂峠まで」と答えると、なんと「この時間じゃそれは絶対に無理。途中で引き返したほうがいい」と断言されてしまった。とりあえず「はい、分かりました」と生返事をしておくが、あるいは自分たち3人の格好を見て、山をなめていると思われたのかもしれない。(実際に、多少なめてしまっている部分もあるのだが・・・。)

目もくらむような高さの豆焼橋を渡りきると、昨日の扇家旅館のおっちゃんの言うとおり、左にダートの林道が分岐していた。

豆焼沢の深い谷の対岸に、今歩いてきた国道140号の車道を望みながら林道を進む。途中、土砂崩れ現場をやり過ごしたりするうち、ゲート出発から約35分で雁坂峠に通じる待望の140号登山道が出現(写真2)!林道はここで行き止まりとなっており、林道の目的はやはり140号車道と140号登山道を連絡することにあるようである。なお、雁坂峠とは反対方向、すなわち140号車道の天狗岩トンネル方面に向かって延びているはずの140号登山道は、ここでも確認することができなかった。

登山道に入ると、いきなり厳しい登りが続く。また、斜面にへばりつくような登山道は、道自体が谷側に傾斜しているため、歩きにくいことこの上ない。おまけに季節柄、一面の落ち葉に覆われているため、「路肩」がはっきりしないのも恐怖である。

谷はずっと同じ左手方向であり、樹林に覆われているせいもあって、景色の変化に乏しい。また、道標が少ない上に特にこれといった目印もなく、持参の地形図を見ても現在地がなかなか把握できないところがなんとも歯がゆい。

登山道を登り始めて1時間くらいで、どうやら尾根道に入ったらしく、登り勾配が大分緩やかになった。とはいえ、尾根よりも少し南側に登山道があるため、相変わらず谷が開けているのは左手方向だけである。

10:50頃、尾根に登る道が分岐している地点に到着。道標には「展望台」としか書かれていないが、雁坂小屋までの途上、地形図上で唯一記載されている地名である「黒岩」ではないかと直感する。だとすれば、雁坂小屋まではあと一息である。

11:00頃、下山する男女2人の登山者とすれ違う。雁坂小屋からの所要時間を聞いたところ、約1時間とのこと。登りは比較的緩やかであり、12:00すぎには小屋に着けると計算する。

しかし、その計算は甘かった。疲労と空腹が頂点に達してきた頃、信じられない道標を見てしまったのである。なんとそこには「黒岩展望台20m、雁坂小屋1545m」の文字が!時間はすでに12:00少し前。小屋はすぐそこだと思っていたのが、一気に谷底へ突き落とされた感じである。

そこからの登りは、はっきり言ってかなりつらかった。それに追い討ちをかけるように、断崖にへばりついた木橋が出現したりしたが(写真4)、なんとか最後の力を振り絞って前進する。

そして12:35、前方にあの「便所国道」が出現!「やったー、着いたぞー」と思わず声を上げる。実は「便所国道」については友人2人には伏せていたので、2人ともしばし登山の疲れを忘れてその感動を味わっているようだった。

さて、なにはともあれメシである。「便所国道」を眺めることができる屋外テーブルに陣取り、まずは一気にカルピスをペットボトルの半分くらいのどに流し込む。そして次におにぎりを口の中にほうり込む。もはや、味わうという次元ではなく、正に本能の趣くままに手と口が動いているだけという感じである。今までにこんな激しい空腹に見舞われたことがあっただろうか。
  



時間との戦い・・・そして再会

 
5 落ち葉に覆われた登山道
 
  

ようやく空腹が満たされたところで、今度は時間的な問題を検討する。自分の雁坂峠行きは無条件に断念。友人2人は、雁坂小屋13:00すぎ出発、雁坂峠13:30出発を守れば、何とか明るいうちに山梨側登山口に達するだろう、という結論が出た。そして、今夜、八王子駅で再会することを約束した。

雁坂小屋の前で記念撮影をした後、友人2人と別れる。時間は13:10である。

「便所国道」をくぐり、先ほど登ってきたばかりの登山道を下る。もちろん下り坂のせいもあるが、足取りは全く軽い。登山においては、エネルギーの補給がやはり重要なのである。

小屋からわずか20分で黒岩を通過。順調に緩やかな下り坂をたどって行く。

ところが、下り勾配が急になってくると、落ち葉で足元が滑りやすくなっているため、思ったほど下りのメリットを生かせない。さらに途中からは靴ずれも追い討ちをかけ、登りと同様つらい歩きとなってしまった。

林道に到着したのは15:15。下りの登山道では、結局1人も登山者とは出会わなかった。

林道をたどり、140号車道の豆焼橋まで戻ってきたところ、なんと橋上に、朝会った年配の3人組登山者がいた。向こうも1人だけの自分を見て驚き、おっちゃんが「あとの2人は?」と問いかけてきたが、「山梨県側に下りました」と言うと、朝の自信はどこへやら、「すごいなー、やっぱり若いからなー」を連発。正におっちゃんの鼻をあかしたという感じで気分が良い。

車両通行止地点のゲートには15:45に到着。無事に登山を終えることができたのだった。

今回の登山により、140号登山道の歩けるところはすべて踏破達成である。すっきり、車道部分も含めた国道140号全線踏破達成とならなかったのは残念であるが、歩けなかった140号登山道の廃道と思われる区間は地形図上ではわずか1kmであり、良しとせねばならない。さらに、友人2人は、今日1日で140号登山道の大部分を使っての雁坂峠越えを達成するわけで、満足感もひとしおであろう。

車に荷物を積み込み、ゲートを15:55に出発。ちょうど見頃の紅葉を眺めながら、国道140号を下った。

途中、渋滞に巻き込まれたこともあり、八王子駅に着いたのは20:20だった。そして、無事に友人2人と、雁坂小屋で別れて以来約7時間ぶりの再会を果たした。

その後、しゃぶしゃぶ屋に移動し、3人の無事を祝って乾杯。とにかくビールがうまい。

しゃぶしゃぶを食べながら、友人2人の話を聞くと、山梨県側登山口のバス停、新地平発16:00前の終バスには、ぎりぎりのところで間に合ったそうだ。やはり、時間的には一杯々々のところだったのである。一方、朝の強気なおっちゃんに自分が再会した話をしたら、2人ともおっちゃんの鼻をあかしたということで、非常に喜んでいた。

しゃぶしゃぶ屋を出て駅に戻ると、時間はすでに22:15。その夜の夜行「ムーンライトながら」には横浜から乗車し、帰途に就いたのであった。
 


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